奥深い悦楽を実現した新型フライングスパー奥深い悦楽を実現した新型フライングスパー

奥深い悦楽を実現した新型フライングスパー

魔法のじゅうたんのような乗り心地に、スポーツカー並みのハンドリング

今年10月に南仏を舞台として行なわれたベントレー・フライングスパーの国際試乗会。そのときのことを思い起こそうとすると、必ず蘇ってくるシーンがある。フランスの高速道路“オートルート”を制限速度の130km/hで疾走しているのにドライバーである私は、なぜか木漏れ日を浴びながら小鳥のさえずりに耳を傾けているのだ。いや、そんなことは現実的に起こるはずがない。たとえ道ばたに林があってもそれが車線上に木漏れ日を作り出すとは思えないし、高速で走る車内で小鳥のさえずりが聞こえるとも考えられない。だから、その情景は私が脳内で勝手に作り上げた空想でしかないのに、私はいまも、木漏れ日の温もりと耳に心地いい小鳥の鳴き声を正確に思い起こすことができる。

きっと、フライングスパーがもたらす極上の乗り心地と優れた静粛性を味わった記憶が、私にそのような錯覚をもたらすのだろう。

魔法のじゅうたんのような乗り心地に、スポーツカー並みのハンドリング

そんな、高速道路では身もとろけるような感覚が味わえるフライングスパーが、ワインディングロードでは小型軽量なスポーツカーもかくやという敏捷な走りを披露したのだから、私は二度驚かずにはいられなかった。しかも、低速から高速までハンドリング特性はほぼニュートラルステアで変わらず、リアのスタビリティ感も文句なし。そして高速道路ではあれほど粛々と回り続けていたW12エンジンが、まるでチューニングを受けたストレート6のようにシャープな吹け上がりを示したのである。

つまり、エンジンは静かなのにパワフルでシャープ。シャシーは魔法のじゅうたんのような乗り心地なのにスポーツカー並みのハンドリングを備えていたのだ。

魔法のじゅうたんのような乗り心地に、スポーツカー並みのハンドリング

気筒休止システムを採用したW12エンジン

その技術的な根拠は、比較的簡単に説明できる。新型フライングスパーのパワートレインやサスペンションには最新の可変制御技術が目白押しなのだ。

たとえばW12エンジンは気筒休止技術といって、あまり多くのトルクを必要としない場合は6気筒分を休止させ、残る6気筒だけを働かせて熱効率を向上させる技術が備わっている。また、燃料を噴射するインジェクターは気筒ごとにシリンダーとインテークマニフォールドの2ヵ所に装備されており、大負荷時はシリンダー内のインジェクター、小負荷時にはインテークマニフォールドのインジェクターが中心的役割を果たして最適な燃焼を実現する。くわえて2基のターボチャージャーと最新のエンジン・コントロール・ユニットが理想的な燃焼を常に維持するのに貢献していることはいうまでもないだろう。

気筒休止システムを採用したW12エンジン

4WS&4WD、そして48Vシステムによる効果は絶大

同様のことはシャシーについてもいえる。エアサスペンションは3チャンバー式とされて内部の空気容量を60%もアップ。ソフトでしなやかな足にもソリッドでしっかりした足にも自在に変化できる。48V系を用いたアクティブ・アンチロールバーのベントレー・ダイナミック・ライド・システムも最新の可変技術のひとつ。新型フライングスパーでは、さらにベントレー初の4WSシステム“エレクトロニック・オール・ホイール・ステアリング”まで装備。これも低速域での小回り性から高速域でのスタビリティ確保まで幅広く活躍する。

4WS&4WD、そして48Vシステムによる効果は絶大

4WDが可変式となったのも、フライングスパーではこの3代目が初めてだ。基本的に前後のトルク配分が40:60で固定だった従来のトルセン式と異なり、新型は電子制御式油圧多板クラッチ式を採用することにより、コーナーの入り口、中ほど、出口のそれぞれで最適なトルク配分を実現。いかにも4WD的な弱アンダーステアではなく、後輪駆動的(実際、トルク配分は全般にリア寄りに設定されている)なステアリング特性を際立たせるのである。

動でもあり静でもある、乗り味

そのほかにも様々な可変技術が搭載されているのだが、もっとも注目すべきは、それらがフライングスパーに二面性を与えるのではなく、多様性というかある種の奥深さをもたらしている点にある。

というのも、二面的といえば、どこかで急激に特性が変化するように思われるが、フライングスパーにそれはない。サスペンションでいえば快適な乗り心地の状態からスポーツカー並みのシャープなハンドリングまで連続的に、そして穏やかに変化していくのだ。だから「動か静か」の二者択一ではなく、「動でもあり静でもある」という一種の多元的状態に思えるのだ。

動でもあり静でもある、乗り味

ベントレーならではの奥義

同じことはドライバーが抱く悦楽性についてもいえる。フライングスパーはタウンスピードで走っていても深い喜びを味わえるし、速度を高めていっても同様の喜びを堪能できる。愉悦のスイートスポットが広いといってもいいだろう。だから、どれほど長い時間ステアリングを握り続けても飽きることがない。これぞ、グランドツアラーの面目躍如というべき側面である。

ベントレーは100年もの歳月を費やして、こうした奥深い悦楽を生み出す術を手に入れた。それは伝統あるラグジュアリーカーブランドだけに許された奥義というべきものであろう。

ベントレーならではの奥義

モータージャーナリスト
大谷達也

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