ベントレーの翼のロゴマークは、卓越したクラフツマンシップ、胸のすくパフォーマンス、そして一世紀にもわたる比類の無き伝統の証として世界中で認められています。ここでは、息をのむように美しいマスコットとエレガントなバッジの双方の成り立ちを振り返ろうと思います。

THE FLYING B

1920年代、ボンネットのマスコットは非常に人気の高い自動車用アクセサリーでした。これらの彫刻のようなマスコットは、そのクルマのパワーとスピードを象徴し、オーナーの到着をスタイリッシュに演出するものでした。

有名なアーティストであるゴードン クロスビーはベントレーのウイングドBバッジをデザインしたのと同じ頃に、「イカロス」をモチーフとしたマスコットもデザインしていました。ベントレーの初期のカタログにこのマスコットを見ることができますが、おそらく著作権の関係で、生産に入ることはありませんでした。

会社が承認した最初のフライングBマスコットがオプションとして提供されたのは、1920年代半ばからのクリックルウッド時代のベントレーからでした。そのマスコットは真鍮の輝きを放ち、直立した「B」から翼が水平に伸びたデザインでした。これもクロスビーのデザインと考えられています。

THE FLYING B

FLYING HIGHER

1930年代のダービー製ベントレーの「サイレントスポーツカー」は、より低く、よりスマートなデザインになりました。そのため、1933年にロールスロイスのスピリットオブエクスタシーのデザイナーであるアーティストのチャールズ サイクスが、新しいマスコットの作成を依頼されました。

サイクスは、アールデコスタイルで前方に傾斜した「B」に一枚の翼を備えたマスコットをデザインしました。それは左右どちらの側から見ても「B」の形に見えるように面取りされていました。しかし、一枚だけの翼のデザインは人気がなかったため、翼が二つあるデザインに変更されました。

その後のMRとMXシリーズのオーバードライブのベントレーには、後方に傾斜したデザインのフライングBが用意され、そのスポーティーなキャラクターを象徴していました。ただし、このクルマのオーナーはボンネットを開ける前にこのマスコットを横に捻るのを忘れると、ボディワークを凹ませてしまうリスクがありました。

フライングBの復活

戦後、デュアルウイングのフライングBマスコットを小型にしたバージョンが、1970年代まではクルー製のベントレーに装備されました。しかし1970年代に制定されたエクステリアへの突起物の装飾を禁止した歩行者安全法により、このマスコットは姿を消しました。

2006年にフライングBは、規制に適合する格納式のメカニズムと共に完全復活を遂げました。 アズール、アルナージ、ブルックランズに装備され、現在ではミュルザンヌに装備することができます。また、ダークティントやゴールドのフライングBといった特別仕様のフライングBマスコットは限定モデル向けにベントレーのマリナー部門から提供されています。

A SENSE OF FLIGHT

ベントレーの100周年である2019年、新型フライングスパーは4ドアのグランドツアラーの決定版として登場しました。このクルマには新たにデザインされたフライングBのマスコットが用意されました。この次の100年間に向けたマスコットを生み出す為に、ベントレーはすべてのデザイナーが参加するデザインコンテストを開催しました。見事にコンテストで選ばれたHoe Young Hwangによる作品は、梟にインスパイアされた物でした。

新型フライングスパー同様に、梟は静止しているときは落ち着いて穏やかに見えますが、ひとたび動きだすと驚くべきパワーと敏捷性を発揮します。新しいデザインのシンプルでモダンな形状は、獲物を求めて穏やかな湖の上を滑る梟を表現しています。またマスコットのベースの部分は、湖面に立つ波をイメージしたデザインとなっています。この魅惑的なディテールは精巧に設計されており、フロントシートから見ても息をのむほど美しく翼が見えるように特に注意が払われました。

ステンレス鋼から鋳造された新しいフライングBは、ジェットエンジンの製造に用いられる工程で手作業で研磨され作られています。リモコンキーで車のロックを解除すると、フライングBのマスコットが電動でせり上がり、翼のクリスタルがヘッドランプのイルミネーションと同期したウェルカムシーケンスに合わせて光り輝きます。それはまさに伝統的な翼のデザインと最新テクノロジーの見事な融合と言えるでしょう。

THE FIRST WINGED B

ベントレーのウイング型のロゴマークは2次元の形で、最初のマスコットが作成される前から存在していました。W.O.ベントレーは1919年に自動車会社を始めましたが、彼が追い求める高いパフォーマンスをアピールするためのロゴマークが必要でした。そこで彼は戦前の最も有名な自動車を描くアーティストである友人のゴードン クロスビーに声を掛けました。彼はその頃、AUTOCAR紙の読者のために長距離レースや大陸横断ツアーを開催するほどの車好きでした。

依頼を受けたクロスビーはオリジナルのウイングドBのデザインを完成させました。それはクルマの俊敏さを表すために両側に翼があり、中央にベントレーの「B」があるデザインでした。翼のデザインはおそらく.第一次世界大戦における戦闘機用エンジンの設計者としてのベントレーの経歴にも影響されたのでしょう。クロスビーは翼の羽を左右で異なる数にして他に見られないデザインとすることで、当時流行していた模造品の一歩先を行きました。

THE WINGS CHANGE DIRECTION

1930年代にロールスロイスがベントレーブランドの所有権を持っていたとき、ベントレーの翼のデザインは合理化され、下向きになっていた羽は水平になるようにまっすぐにされました。また左右の翼には10枚の同数の羽が与えられ、オリジナルの非対称性が失われました。

ロゴは1990年代に再度見直され、クロスビーがデザインした元の左右非対称の翼に戻されました。中央の「B」もオリジナルのデザインに近い形に変更されました。その後2002年に新しいコーポレートアイデンティティが制定され、その伝統へ敬意を示しつつ現代のベントレーの価値を体現する、今日使用されているウイングドBのデザインが完成したのです。

ベントレー100周年

2019年にはベントレー100周年を祝うために、この年に製造されたクルマには専用のウイングド Bのデザインが作成されました。ベントレーの「B」とその周りの楕円は、センテナリーゴールドという特別なメタリックで縁取りされ、「B」の両側には、クロスビーが一世紀前に起こしたオリジナルデザインへの賛辞を込めて、1919と2019の年号が記されています。